第23章 ご城下らぷそでぃ【S×O】
「どのような素性の娘か、調べさせますか?」
「…いや、それは…よい」
「しかし、翔様と寝屋を共にし、わ子が宿り、輿入れということになると…素性のはっきりしないものは、困りますから…」
……わ子…?
…輿入れ……さとが…
さとの涼やかな声や、菩薩のような笑みを思い浮かべてみた……
「それに、約束通りに来るかどうかも分かりませぬ。」
「そんな、ことは…」
さとは来ると、しっかりと頷いてくれた。
その場しのぎの、適当な約束をするような、そんなことは……
「とりあえず、素性だけでも急いで調べますので。」
「……そうか」
それから、和也といつものように城下を歩いて回ったが、
頭から離れぬのは、さとのこと。
僅かばかりの時間を過ごしただけの娘。
寝屋どころか、指さえ触れてはおらぬのに…
なぜこのように、さとのことが頭から離れぬのか?
最後に良安先生のところによって、
最近妙な病が流行っていないか、なにか変わったことや気になることはないか、
といつものように聞き、3人で茶を飲んだ。
「今日は、町で何かいつもと違ったことでもありましたか?」
「変わったこと?」
医者の良安は御殿医で、幼少の頃から私のことを見てきたうちのひとりだ。
「今日の翔様は、なんといいますか、心ここに在らず…という様な…」
良安の言葉に、和也が笑いを堪えている。
「和!何を笑ろうておる!」
「まるで、恋でもなされたような…」
……恋…?
恋…と…
そう言ったのか…?
良安の言葉に、引っ掛かっていた得体の知れないものが落ちたような…
澱んでいた水が、流れたような…
そんな気がした。