第23章 ご城下らぷそでぃ【S×O】
「待たれっ…」
我ながら驚くほどの大きな声が出てしまい、顔が熱くなる。
その声に娘は歩みを止め、こちらを振り返ってくれた。
「そち、名を何と申すのだ…」
「…さと…さとと、申します」
期待を裏切らない…綺麗な名だ。
「さとか…良い名だ。では、さと。またそなたに会えるか…」
「……」
「ここで。5…いや、3日後に」
「……」
「待っている」
一瞬困ったように目を伏せたが、顔を上げ、微笑みながら頷いてくれた。
「翔様……」
「……」
さとの帰った参道を見つめたまま動かない私に、気遣わしげに和也が声を掛ける。
「帰してしまわれてよかったのですか?」
「……?」
一瞬、和也の言う意図が解らず、黙っていると、
「あの娘、呼び戻しましょうか?」
「呼び戻す…?」
そこで初めて、彼の言わんとすることを理解した。
さとを、呼び戻して…
そして……
頭の中で、さとの深い青の着物に手をかける己を想像してみたが……
できなかった…
いつも、当たり前にしていることが、相手がさとだと思うと……
私はいったい、どうしたと言うのだ?
「いかがいたしました?」
和也に顔を覗き込まれて、
「…よいのだ。三日後、またここで会うと、そう約束した」
「三日後…ですか?」
「そうだ…だから、よいのだ…」
そう……
さとと、しっかり約束を、交わしたのだ。
「翔様。もしや、あの娘に…」
「えっ?」
「先程の娘…私は遠目にしか見ておりませんが、なかなかの器量よし。
翔様、お心を動かされましたか?」
心を……あの、さとに……
それを認めてしまえば、この何とも言えない不思議な気持ちに理由がつく。