第23章 ご城下らぷそでぃ【S×O】
「眩いばかりだな」
ゆっくりも歩みを進め近付いていく私を、娘は凛とした佇まいで待っていた。
「……はい、本当に見事です」
声をかけながら近づくと、娘は訝しがるわけでもなく、そう答えた。
鈴を転がしたような…というのは、この娘の声のことを言うのだと…そんな気がした。
「この近くに住んでいるのか?」
「はい…」
「ひとりで来たのか?」
「ええ、お父上の使いで、お寺に参りました」
「そうか…」
「お侍さんは?」
「ん??」
「お寺にはどうして?」
私のことを覗き込む優し気な眼差しに、今まで感じたことのない、得も言われぬ不可思議な感情を覚えた。
「私は…牡丹を愛でに参った」
「そうでしたか…満開ですから、なによりでございましたね」
そう言いながら、目線を群れ咲く白い牡丹へとゆっくり戻した。
……美しい…
このような美しい娘には出会ったことがない。
それから、牡丹を愛でるために設えた丸太に腰かけて、暫くの間他愛もない話をした。
娘との話は、機転の利いているが奥ゆかしさがあり、それは楽しくて…時間の過ぎるのを忘れたほどだった。
「そろそろ、戻らないと…」
「おお、そうか…お父上も心配しているであろう」
「お話し出来て、楽しゅうございました」
「そうか。それはよかった」
「では、失礼いたします…」
「うむ…」
立ち上がり、こちらに向かって会釈する様も、美しく雅で…
溜息が漏れた。
清楚なのに、白い首筋からは、何とも言われぬ色香が漂っていた。
踵を返し歩きだした娘の後ろ姿に見惚れていた、その時…
「翔様!翔様」
和が物陰から焦ったように声をかけてきた。
振り向くと、娘の方を指差してしきりに目配せする。
あ…そうだ…
慌てて立ち上がり青い着物の後姿に、急いで声をかけた。