第23章 ご城下らぷそでぃ【S×O】
「………」
言葉が……
出なかった
少し離れた塀の脇に、ひっそりと群れ咲く白い牡丹……
その前に、青い牡丹が咲いているのかと、一瞬見紛うほどの娘が…
ひとりで立っていた。
……………
「如何なされました?」
動かない私を不思議に思った和也が、顔を覗き込んでからその視線の先をたどった。
「…翔様…」
私たちの気配に気がついたのか、青い牡丹は、ゆっくりとこちらを振り向いた。
……なんと………
青い着物に身を包んだ娘は、僅かに顔を傾けて会釈した。
口許だけにほんの微かに笑みを浮かべて……
……この世のものとは思えなかった。
まさに、天女が舞い降りたかのような…
その場から動けない私に、和也が耳打ちした。
「あの娘になさいますか?」
「えっ!?」
「随分とお気に召されたようですので…」
「……」
その言葉に一気に現実に引き戻されたような気がして、直ぐにそこに結び付けようとする和也を疎ましくさえ思った。
が、しかし………
できることならば、あの青い牡丹をこの腕に抱き締めてみたい。
和也の提案に眉を潜めておいて、結局は同じではないか…と己を恥じる。
しかし…
「話を…」
「は?なんと申されましたか?」
「とりあえずは、あの娘と話してみたい…」
…………
珍しく弱気な事を言う私に、訝しげな顔をしながらも、娘と交渉をすると言う。
「私が…自分で声を掛ける…」
「は?」
「お前はここにおれ…」
「しかし……」
困惑する小姓を置いて、私はゆっくりと娘に近付いた。