第14章 幻想花【A×M】
【翔side】
胸騒ぎがした
最後に見た相葉さんの顔と、俺のこと見下していた館のもう一人の住人
弟なんかじゃない…
そんなの、あの瞬間に分かっていた
翌日、仕事の終わりにあの洋館に立ち寄った俺は、玄関のチャイムを押した
でも、何の返答もなく、静寂が辺りを包む
そっと玄関ドアのノブを回すと、ドアは呆気なく音を立てて開いた
廊下には薄暗い電灯が付いていて、
まるで俺を二階へと誘っているようだった
何かに取り憑かれたように、俺はゆっくりと階段を上がった
幾つもある部屋の一つから細く灯が漏れている
そっと開けると、そこは薄紫の幕が幾重にも掛けられていて、幻想的な雰囲気だった
広い部屋の一番奥……
白いシーツの真ん中で、眠っているような二人の顔
裸のふたりの背中…
窓から見ていた彼の肩には、無数に散らばる朱い痕
まるで、花びらが舞落ちたように見えた
そして、その小指にしっかりと結ばれた、赤い毛糸……
………俺は、夢でも見ているんじゃないかと…
それ程、二人は美しかった……
この世のものとは思えないくらいに…
二人の遺言で、一緒に荼毘に付された煙が、絡み合うように真っ直ぐ空に登っていくのを見たとき、きっと彼らは、誰よりも幸せだったんじゃないかと
そう、思った
【END】