第8章 リゾートは甘くない【M×S】
「ねえ、潤…なんか飲む~?」
バスローブだけ羽織った彼が聞く。
年末の怒涛のようなスケジュールをこなし、
ほぼ休まずに飛行機に飛び乗って、
俺は翔くんと、
ここ、セブ島にやってきていた。
……正直疲れた。
ノンストップの上に、
激しく求め合った身体は、
心地よい疲労感に包まれ、
返事をするのも、少し億劫になっていた。
うつ伏せたベッドに
ゆっくり近づいてきた彼が、
「…潤…」
そう言って俺を少し起こして、
口に含んだペリエを流し込んできた。
喉の奥に冷たい刺激となって、
流れこんだ液体の、
ピリッとした刺激が、
疲れた身体と頭に心地よかった。
俺は翔くんの腕を引き寄せた。
翌日の午後、俺たちは観光に出掛けようと、
ホテルからタクシーに乗り込んだ。
有名な寺院や教会を巡ったり、
買い物を楽しむつもりだった。
俺たちを乗せたタクシーが
市街地を抜けて郊外へ出たその時、
一瞬、身体が投げ出されるかと
思うほどの急ブレーキと共に
タクシーが止まった。
「えっ?なに??」
すると、俺たちの乗ったタクシーは
数人の男たちに取り囲まれた。
突然のことで、
何が起きたのか分からなかった。
男たちは全く分からない現地の言葉で
俺たちをタクシーの外に連れ出すと、
自分たちの乗ってきたワゴンに押し込んだ。
時間にしたら、
ほんの僅かな出来事だ。
車は、猿ぐつわを噛まされた俺と翔くんを乗せ、
猛スピードで発進した。