第1章 魅惑のティーカップ 逢坂壮五
また来てくれたんですね、なんて緩く微笑む彼女に対して男性店員はキッチンに行ってしまって、カウンター越しに2人きり。
どうしたらいいんだろうか
驚く壮五を見かねたのか、彼女が本棚に近いクッションソファーへと連れて行ってくれた。
「逢坂壮五くんでしょ?」
「あっ、はい」
「五十嵐レイですよろしくね」
彼女に対して静かそうな文学美人というイメージがあった壮五だが、予想外のフレンドリーさに安堵する。
しかも名前を知っている、ということはアイドルであることを知っている、ということだろうか。
「本、読んでくれました?」
「はい!すごく面白かったです!」
「よかった」
そんな思いも忘れるくらいに彼女と話した。
博学でかなり本が好きなのだろう。
名前以外は何も聞かなかったが、それでも本のことだけで何時間も話続けた。
楽しくて、久しぶりに子供のようにはしゃいだような気持ちだ。
時間はやっぱりあっという間で、本の話題だけでここまで話したのは彼女が初めてで。
外は日がくれ既に月が浮かんでいた。
暗くはないが少し肌寒い表通りでまだ興奮冷めやらぬ壮五は別れてしまう前に意を決して彼女へと頭を下げた。
「よかったら僕とラビチャ交換しませんか...!!」
勢い良く顔をあげれば驚き顔の彼女と見つめあって数十秒、壮五は自分の言ったことを再認識し、顔を赤く染めた。
「あっ、いや、その、そういうわけではなくて、」
何のために言ったんだ僕は!!話すためだろう!?
心の中では機敏につっこむも出てくる言葉は途切れ途切れの言葉と少しの否定ばかり。
しかし、彼女はふと笑をこぼすといいよ、と楽しそうに言い。
「でも壮五くんアイドルでしょう?私、ファンに刺されてしまいそうだ」
交換し終わった薄いスマホの上辺を顎下につけながら薄い唇を三日月のように引き上げて魅惑的に微笑んだ。
とても良い休日を過ごした、そう彼女と話した内容の思い出と熱の余韻に浸りながら歩く。
今考えればアイドルの行動としては少しの軽率だったかもしれない。
けれど彼女の話し方も意見や考え方も全てがとても、なんだか、言い表せないのだが、惹かれるものがあったのだ。
次に会えるのは何時だろうか。
また一週間は過ぎてしまうだろう。
それでもその"次"に心を踊らせ壮五は寮へと帰宅した。
