第7章 残り香 宇井郡
甘辛い彼女の匂いがこびりついている
いつも煙草なんか吸わないと思っていた。
慎ましく大人しそうな美形の容姿に反して芯のしっかりとした中身と男性にも劣らない名声に戦績。
初めて見た時とはすっかり変わった彼女の印象。
人は外見によらないとはこの事だとすら思った。
「おっと、先客でしたか」
「レイ上等...煙草なんか吸うんですか貴女」
「あぁ、ちょっとだけ」
苦笑いの表情、目の下にはくっきりとつく隈が。
様子から察するに徹夜明けだろう。
「あ、ライターがない...」
「よかったらどうぞ」
「ありがとうございます」
ドットピンクと黒のラインが斜めに入った箱から細身の煙草を取り出して咥えると私の手からライターを受け取った。
受け取る時も、返される時も、冷たく細長い彼女の指が自分の手に触れてぴくりと反応してしまった。
なんて細いのだろうか
ニコチンの煙が充満した喫煙所内に二人きり。
彼女とサシで話すのは初めてじゃないか?
いつもハイルや彼女の義兄である有馬特等がいて話すことが殆ど、だった。
チラリと彼女を横目で見れば疲れか、虚ろげに目を伏せ、自分の指に挟まる煙草をただただ見つめている
横顔は嫌味なほどに整っていて伏さる睫毛は長くて灰色を帯びている
ふぅ、と吐き出した煙は甘くて痺れるような匂いがして彼女に似ているなあ、なんておもったり。
「美人だな...」
彼女が驚いた様な顔でこちらを見た。
何か口走って、...?
自分が放った言葉に思わず口を塞いで顔を逸らす。
「あっ、いや、い、今のは言葉の綾と言うか、思わず、というか」
あぁ、言い訳がたどたどしいな...
しどろもどろになっていると彼女がふと笑った。
「あっはは、宇井特等からそんなこと言われるなんて思ってなかった」
「貴女、そんな顔で笑う人だったっけ...」
ありがとう、と微笑まれると此方も笑うしかない。
浮かべたのは曖昧な苦笑いだったが彼女の笑顔はなんだか幸せそうで、自分自身も久々にとても楽しい気がした。
幸せだったんだ私も。