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【とうらぶ】刀さに色々 【短編集】

第2章 【燭さに】夜空に浮かぶ太陽



別段海が好きだった訳では無い。
ただ静かにぼんやりと、そう、何も考えなくていい場所に行きたかった。
シーズンから外れたそこは、秋の空を纏い静かに水面を揺らし砂浜を濡らし続けている。
何をするわけでもなくただそれを堤防に座り眺めていた。薄曇りな空模様も今の私には丁度いい。

良くあるだろう、世の中に疲れてしまう事。
自分に取り巻く環境すべて、生きていく為には必要なあれこれ、しがらみ、善意に悪意。
その全てに疲れてしまった。
雄大なモノに触れれば自分のちっぽけなあれやそれやが馬鹿らしく思えるのではないかと。
そう、だから山とかでも良かった。でも自宅から電車を乗り継いで向かうには山は遠すぎるし遭難したら嫌だ、海は水に入りさえしなければ溺れたりしないし何より行き易い...などとそういう時に限ってやけに現実的な思考だったが、選んだ理由は本当にそれだけだった。
実際に来てみてどうなんだろう、何か感じただろうか。結局私は逃げて色々と自分を誤魔化すための時間が欲しかっただけなのかもしれない。

海岸は人通りが少なく本当に静かだ。
たまに犬の散歩にくる年配の男性や、波打ち際で軽く遊ぶ親子連れが来る程度。
私を知る人たちが居なければ喧騒もなく、波の音がひたすら繰り返されているだけ。それが心地よくて、少しだけ寂しい。

「...あの、こんにちは」

どれだけそうしていただろう。
スマホの電源すらオフにして対人に関するものをシャットアウトさせていたから、まさか声がかかるとは思ってもいなくて完全に反応が遅れた。

「...?」
「え...っと、その」

想定外の出来事に言葉が出ずただ声のした方へ振り返る。と、そこにいたのは黒いTシャツにジーンズ、エプロンをした男性が戸惑いがちに立っていた。
いや、戸惑うのはむしろこちらの方で。
だって相手はスラリとした長身のえげつないイケメンで、右目を覆うような長い前髪で隠されたその目には更に眼帯をしている。どんだけ隠したいんだろう...じゃなくて、こんなのどっかで読んだ都合のいい夢物語のようだし、なんというかいっそ怪しい。
私が酷く怪訝な顔をしていたんだろう、気づいた彼は眉を八の字にして慌てて口を開いた。

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