【R18】【ごちゃまぜ裏夢✿短編集】今夜はOKかもしれない。
第37章 呪術廻戦✿夏油傑「呪われた谷間」
「冷た…っ」
シャワーヘッドから出たのは冷たい水。
遂にはガスも止められてしまった。
電気もつかない浴室で冷水を浴び、体を洗う。
玄関口にはたくさんの請求書がつまっていた。
入り口を塞ぐように置かれたゴミ袋。
まだ日中だというのに遮光カーテンを閉め切り、蠅がたかった場所もあれば自分の生活する空間だけは綺麗に足場ができていた。
ミシッ… ギシッ…
古い平屋は元々祖父母が暮らしていた。
あらゆるところにガタが来ていて、風が吹くだけでも屋根や床が軋む。
両親を失い、祖父母も失い、たったひとり残された若干16歳の美しい少女が息をひそめ暮らしていた。
「……ヒィッ──」
戸口に手をかけようとした時だった。
ぬるりと壁からすり抜けてきた頭部。
突然姿を現した物の怪が大きな口と歯を出して ニシシ…と嗤った。
「き ゃ あ ぁあ あッッッ」
誰もいない家での悲鳴が響いた。
ぐにゅっと触られた感触はあったものの一瞬。
そこにいた物の怪は跡形もなく消えていた。
は震える指でおそるおそる戸口を開けた。
鏡を見るのも怖くてすべて粉々。
体を拭いてからショーツを履き、ブラジャーを付けようとしたその時……息を詰めた。
ギシッ… ギシィッ…
自然に軋む音ではない。
誰かが床を踏みしめる音だ。
「……っ…」
出入り口となるところは鍵だけでなく、誰も入られないように家具や家電、家にあった物を積み重ね要塞化していた。
しかし何も崩れた音はなかった。
それなのに人のような足音が此方にだんだん近づいてくる。
「───」
「やあ、迎えに来たよ。ちゃん」
黒の僧衣と袈裟を着た若い男。
おしゃれな長髪の黒髪。
耳に大きめのピアス、額には大きな傷の縫い跡があった。
僧侶は人間らしく穏やかに微笑んだ。
は見た目の恐ろしい物の怪じゃないことに警戒心を少しだけ解いた。