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短編集/鬼の木漏れ日

第10章 離れても



――― アイドルは、良いことも悪いこともたくさんあるけど…それを乗り越えられたら、鬼龍くんは大丈夫だよ ―――

 たしかに良いことばかりじゃなかったが…

「水瀬にそう言ってもらえたなら、嬉しいな」
「そんな大げさだな」
「本当だって」

 きっと、水瀬の応援もあったから俺はここまで頑張ってこられた。

「本当、来てくれてありがとうな…すげぇ嬉しかった」
「…こちらこそ、素敵なライブをありがとう」

 水瀬が近づいてきたと思ったら、抱き着いてきた。昔と違う身長差、腹のあたりにあたる柔らかい感触、とシャツを握る小さな手、心地いいシャンプーの香りに俺の思考は一瞬止まった。

「それじゃあ、私そろそろ行くね」

 思考が戻ったのは、水瀬の身体が俺から離れた時だった。

「もう、行くのか?」
「うん。夕方に予定が入ってるから」
「そうか、気を付けてな」
「うん。鬼龍くんもね」

 水瀬は笑顔で、その場から離れて行ってしまった。

「…まだつけててくれたんだな」

――― いいの? ―――
――― これがいいって言ったの、お前だろ ―――
――― そうなんだけど… ―――
――― これなら俺もつけやすいしよ ―――

 揃いで買った指輪のネックレスを触りながら、また会えたら俺はまた水瀬に気持ちを伝えたいと思った。今度は絶対手放さないと約束できるように…
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