第10章 離れても
「悪い、ちょっと抜ける」
ライブが無事に終わると、俺は衣装から制服に急いで着替えて走った。
舞台から見えた。観客席から離れたところからライブを見ていた奴の姿に驚いた。
――― 鬼龍くん…っ ―――
中学を卒業するときに別れた大事な彼女。俺なんかと関わってたら中学の時みたいに迷惑をかけちまうって思って、別れを告げた。今にも泣きだしそうに瞳を潤ませてるのに、頑張って笑顔を作って了承してくれた。
「はぁ…はぁ…どこだ…?」
嫌だって言ってほしかった。でも、後になってからあいつは我儘を言うような奴じゃないってことを思い出して、自己嫌悪した。
自業自得なことをしたのはわかってる、わかってるけど、本当は手放したくなかった。ずっと一緒にいてほしかった。
「あ…」
ようやく見つけたあいつは、中学の頃よりも綺麗になっていた。三つ編みにされた伸びた髪も日の光に当たって煌めいていて、服もシンプルなデザインだが肩を出した女の子らしい服に、ヒールが高めのサンダルを履いていた。そして首元には金色のチェーンのネックレスがかかっていたが、トップスはワンピースの襟の中に隠れていた。
「水瀬…」
「え?」
俺の方を振り向いた水瀬は、目を見開いて驚いていた。その目元は少し赤くなっていた。
「あ、えっと…」
「久しぶり…元気にしてたか?」
「う、うん…鬼龍くんも元気そうでよかった…」
水瀬の声は相変わらず心地のいいもので、今すぐ捕まえたい。でも、俺にはもうそれをすることはできない。
「ライブ、かっこよかったよ…ほんとにアイドルになったんだなって思った…」
瞳を潤ませながら、嬉しそうに微笑む水瀬にそう言われて、俺は中学の時に水瀬にアイドルになりたいと言った時のことを思い出した。