第1章 出産逃避行
「はぁ…はぁ…!」
「ふみゃぁあ…!」
「へ!? 明音ちゃん? あ、ごめんね? いきなり走ったからびっくりしたよね…」
ごちゃごちゃ不安でこんがらがりそうになった時、明音ちゃんが泣いた。疲れでも、空腹でも、オムツでもない、不安の泣き声だった。そうだ、私、また不安になってる…
「ごめんね…大丈夫だよ…」
「みゃああ…!」
「大丈夫、ごめんね、疲れたよね…」
明音ちゃんが安心できるように抱きしめてあやしていたら、後ろから明音ちゃんごと抱きしめられた。
「やっと…見つけた…」
「あ…」
「…ごめんな。気づくのが遅くて」
「悪いの、全部私なの…お願い…帰って…」
「置いて帰れるわけねぇだろ。それに全部あやのせいじゃねぇだろ。俺にも責任がある」
「違う…」
「違わねーよ」
力を少し込められて、もう離さないと言わんばかりのぬくもりはずっと欲しくて仕方がなかったもので、閉じ込められたらもう二度と出られなくされてしまう。出ないといけないのに、それを紅郎くんが許してくれない。
「あや、この子と一緒に俺と本当の家族になってくれ」
「……ダメだよ。そんなの、紅郎くんが辛いよ?」
「辛くねぇよ。自分の責任だ。身を以て受けるさ」
「……」
「もう大事なもんは失くしたくねぇ。あやとこの子に傍で笑ってほしいんだ」
一緒にいたいって応えたい。でも、そうしてしまったらこれまでが無駄になってしまう。折角紅月も順調だったのに…これが知られたらきっとみんな辛い思いをしてしまう……
「ぱぁ、ぱ」
「ん?」
「え、明音ちゃん?」
「ぱーぱっ」
いつも紅月がテレビに出てて、紅郎くんがアップで映ると「パパだよ」って言ってたせいかな。明音ちゃんは紅郎くんを見上げて笑顔ではっきり言った。赤ん坊だから意味はわからないと思っていたけど、意味はともかくとして紅郎くん=パパなのはわかってるのかも…あ、そういえば寝ぐずる時に紅郎くんの出てるビデオ見せたら泣き止む時もあったな…