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短編集/鬼の木漏れ日

第1章 出産逃避行


 明音ちゃんが生まれてからもうすぐ1年が経とうとしていた。明音ちゃんが生まれてからも女将さんのお店で働きながら明音ちゃんを育てた。女将さんたちの協力もあって、明音ちゃんは元気に育っている。

「げっ、野菜がいくつか切れてる。昨日使いすぎたかしら?」
「あ、私買って来ますよ。明音ちゃんも一緒に行こうねー?」
「あぅ」
「そうかい? じゃあ、メモ書くから待ってな」

 明音ちゃんと抱っこひもでくっついて、買い出しに行く支度を済ませて、女将さんからもらったメモを持って、私は買い出しに出た。

「ありがとうございます」
「いつも贔屓にしてくれてありがとな。明音ちゃんも早く野菜いっぱい食おうなー?」
「うー?」
「その時はよろしくお願いします」

 八百屋さんでの買い物を終えて、買い出しを終えて、お店に戻る途中、女将さんからメールが入った。なにやらテレビのぶらり旅番組か何かでお店に取材が入ったらしい。たしかにお店は居酒屋だけど割と地元のお爺ちゃんとかは時間関係なしに入ってくるからそういうことなんだろうな。明音ちゃん、びっくりして泣かないといいんだけど…

「女将さん、ただいま戻りました」
「あ、おかえり。ちょうどうちの看板親子が帰って来たよ」
「はい。これ、買い出しの…」
「……」
「……」
「……」

 お店に戻って、女将さんに買って来たものを入れたトートバッグを渡しながらカウンターを見ると、そこにいたのは常連のお爺ちゃんたち数人、聞いて予想通りのテレビ局の人と紅月の3人だった。紅月の3人は私を見て目を見開いていて、紅郎くんの目は明音ちゃんを抱えてる抱っこ紐にあった。

「……っ」
「悪りぃ、行ってくる…」
「おいっ、鬼龍! 撮影中だぞ!?」
「あや!?」

 私は思わず、裏口に向かって走ってお店から出た。
 とにかく走って、隠れられそうなところを探した。でも、探そうと思えば思うほど見つからなくて、でも走り続けるしかなかった。今のところ追われている気配はないけど、油断できなかった。まさかこんなところで会うだなんて思わなかった。会いたくなかったなんて嘘になる、でも、会っちゃいけなかった…!
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