第4章 裏/やきもちの香り
「……鬼龍」
「ん? どうした、蓮巳」
「しばらく背中は見せるなよ」
「あ? なんだよ、いきなり」
「鬼龍殿、その背中の傷はどうされたのだ?」
「傷?」
ライブ前に着替えていたら蓮巳にしかめっ面で言われ、神崎からは心配そうな表情で言われ、背中を確認してみると爪痕が赤く残ってた。
可能性からして、恐らく昨日の夜あやを抱いた時にあやの腕が背中に回ってたからそん時に指先に力が入っていたんだろう。そういや、しがみつかれたことはこれまでねぇな。
「………あぁ、あん時か」
「まったく、度し難い…」
「大丈夫なのか?」
「あぁ、神崎。大したことじゃねぇから大丈夫だ。にしても、旦那」
「なんだ」
「案外むっつりだな?」
「な!? 貴様がそのような痕を残すからだろ!」
蓮巳はこういう下世話なことに疎いと思っていたんだが、思ってたよりは年頃の男子並みにわかっているもんだ。
「あと、その鼻の下を伸ばした表情も本番までに引き締めておけ」
「あぁ、気をつけるよ」
「痕がついて良かったのか?」
「アイドルとしては駄目なんだろうけどな。男としては嬉しい勲章みたいなもんだな」
なにせ好きな女に自分で付けさせた痕だ。きっと、あやのことだ。この痕を見せたら昨日のことを思い出して顔を赤くするだろうな。