第4章 裏/やきもちの香り
「……」
「なんだよ、羽風」
昼休みに屋上で飯を食って、裁縫をしていたら何故か羽風が来た。羽風とはたまに話すが仲良しというわけではない。
「ずーっと、鬼龍くんから女の子の香りがするなーって思ってたんだけど…まさかあやちゃんだとは…」
「は?」
おい、今あやちゃんと言ったか? まさか会ったことあるってことか?
たしかに羽風は女とつるんでるとこも見かけることもあったから可能性はあるかもしれねぇが…
「俺もね、あやちゃんから男の香りがした時は信じたくなかったんだけど、まさかこの組合せとは…」
「おい、羽風…」
「ん? あ、言っとくけど、あやちゃんは他の子と違って友達っていうか、お母さんみたいに見てるだけだからね?」
「お母さんって…まぁ…わかんなくないけどよ…」
あやはたしかに料理も裁縫も家事も出来ちまうし、よく頼まれごとも受けたりしてるから言わんとしていることはわからなくもないが…
よく今まで羽風の毒牙にかからなかったもんだ。いや、あやのことだから他の男に目移りしてないと信じたい。
「まあ、他の女の子たちの前でもほとんどお母さんみたいな感じだからさ、あやちゃん恋愛ごと疎いままなんじゃないかなーってちょっと心配してたんだけど」
余計なお世話だ。
「まぁ、鬼龍くんなら納得だ」
「おい、勝手に話をまとめんな」
「だって、鬼龍くん、あやちゃんにメロメロでしょ? 俺はそれがわかれば充分なんだけど」
「いや、意味わかんねーから」
「だから、あやちゃんの鬼龍くん大好きって気持ちが香りにまで来ちゃってるてこと。おかげであやちゃんの内緒の旦那さん知れたんだけど」
「内緒ってなんだよ?」
「あー…あやちゃん、告白されても彼氏がいるからっていつも断ってるけど、あやちゃん自体彼氏の詳しい話しないから、周りじゃ彼氏はどんな人だって話題になってるんだよ?」
「……」
「まあ、アイドル科の鬼龍くん相手で、迷惑かけたくなかったのとあれは多分…」
そりゃ、男どもに目をつけられることだってあるのは分かっていた。が、改めて知らされると堪えるな…
あやと両想いだってことに疑いはないけどよ。
なんか無性にあやに会って、抱きしめたかった。