第2章 伝えたい
「失礼します。鬼龍先輩、いらっしゃいますか?」
「こんにちは」
「こ、こんにちは…」
「はじめまして、普通科3年、空手部副部長の水瀬です。ちょっと待っててくださいね、鬼龍くん、鬼龍くん?」
「ん? どうした?」
「プロデュース科の子が来てるよ?」
水瀬に肩を揺らされて気づくと、呆然としたプロデュース科の嬢ちゃんが立っていた。
「私、出てた方がいいかな?」
「いや、作業を続けててくれ。嬢ちゃん、どうかしたか?」
「あ、えっと、衣装のことで少し相談したくて…」
「おぉ、構わねぇよ。ここでもいいか? 俺も少し作業があってな」
「は、はい」
嬢ちゃんの相談に乗って、アドバイスで案をいくつか挙げると嬢ちゃんは真剣に聞き、色々考えをまとめようとクロッキーに書き収めると、俺の後ろに視線をやっていた。どうやら水瀬のことが気になるらしい。
「水瀬が気になるのか?」
「いえ、その…」
「水瀬は部活仲間なんだけどよ、よく衣装の装飾とか手伝ってもらってんだ」
「装飾…」
「あとヘアメイクも好きだぞ。よく普通科の女子のデート前にも一役買ってるみたいで、たまに出来た写真とか見せてくれんだけど、結構綺麗だったな」
「ヘアメイク…」
お、なんか嬢ちゃんの目が輝いてんな? 嬢ちゃんも女の子だからそういうオシャレとか興味があるのかもしれねぇな…
「水瀬」
「なに? 鬼龍くん」
「嬢ちゃんがお前に聞いてみたいことあるみたいだぞ?」
「私に? なんですか?」
「へ? あ、あの…その…」
「?」
話を水瀬に振ると嬢ちゃんは驚きながらも、言葉を紡ごうとしていた。水瀬はそれを急かすことなく、首を傾げながら待っていた。
「ヘアメイクのこと、教えてください!」
やっぱ嬢ちゃんも女の子なんだと、俺は思っていた。が、それは思わぬ形で崩されてしまった。
「えっと…自分用のですか? それとも、プロデューサーとして学びたい方ですか?」
「は?」
「プロデューサーとしての方です!」
「わかりました。予定の空いてる日を教えて貰えたら色々準備しますが…」
「お願いします!」
嬢ちゃん、仕事優先にも程があるだろ…
水瀬、よく嬢ちゃんの考えを見抜いたな…
俺はこの時ほど女がわからねぇと思ったことはない…