第2章 伝えたい
「へくちっ」
夢ノ咲学院アイドル科校舎敷地内にある武道場には似つかわしくない可愛らしい小さな声が聞こえた。それもそのはずだ、ここには女子がいる。
「…水瀬、寒いか? やっぱエアコン気温上げとくか…」
「大丈夫だよ。それにストールもあるし、鬼龍くんは暑いでしょ? 私に合わせなくて大丈夫だから」
「それで風邪ひいたら元も子もねぇだろ。遠慮すんな」
俺の傍で衣装作りを手伝ってくれている水瀬は普通科の3年で、空手部の副部長だ。見た目は中学生に見られてもおかしくないくらい小柄で可愛らしい見た目で、性格もどちらかというと内向的な奴だ。しかし、戦闘力は俺並みにあるため、ある意味おっかない。それ以外を除けば、手芸やオシャレが大好きな可愛らしい女の子だ。
「ごめんなさい…」
「だから謝らなくていいよ。水瀬に倒れられたら1番困るのは俺だしな」
水瀬の趣味が手芸であり、手先が器用なため衣装用の装飾なんかを頼んでるうちに部活の合間なんかに手伝ってくれるようになった。今もこうして一緒に作業をしてくれる。部活でも苦手な報告書類なんかも手伝ってくれるし、アイドル活動や衣装作りに忙しい時は部活で後輩の指導もしてくれる。今じゃ水瀬がいないと俺の身の回りは恐らく回らないだろう。
水瀬は病弱でこそないが、寒がりでエアコンの冷房が苦手だ。設定温度が低いほどくしゃみをするし、酷いと咳き込むこともある。なるべく部員の健康面も考慮して設定温度は高めにしているが、知らないうちに設定温度が低くなることはザラだった。それに水瀬は人に遠慮するから低くても文句を言わない、むしろ周りを優先してしまう。いまもエアコン対策に防寒具を用意しているくらいだ。
「うしっ、さっさと今日の作業進めちまおう」
「き、鬼龍くん…」
「ん?」
「…い、いつもありがとう」
「……俺もいつもありがとな」
水瀬が申し訳なさそうに、でも、はにかみながらいきなり礼を言ってくるから驚いたが、俺も水瀬にはそれこそ1年の頃から世話になっているから礼を言って、作業を再開した。