第1章 僕と結婚していただけませんか
「………冗談、だと?」
偉そうに腕組みしながら問いかけるその表情があまりにも恍惚すぎるくらい美しくて。
一瞬、不覚にもたじろいだ。
「見合いを断るための、口実だと、お思いですか」
「な、なによ」
一歩後退しそうになる両足を目一杯踏ん張って、なんとか耐える。
「………ハイセ、退きなさい」
耐えたついでに、顔を上げて目の前の執事へと命令した。
この男はただの執事で、あたしは『お嬢様』。
怯む必要などないのだ。
「………」
「ハイセ」
ピクリと、右の眉が不機嫌に揺れて。
やっとこの偉そうな執事はそこを退いた。
だけど。
「…………っ」
入った途端に。
閉められたドアに突かれたハイセの右腕に、囲われるように行く手を憚れる。
睨み付けるつもりで見上げた彼に逆に射抜かれて。
初めての至近距離に、あたしの意思とは関係なく温度をあげていく体がすごく嫌。