第1章 僕と結婚していただけませんか
「……………は?」
「失礼ですがお嬢様、さっきから言葉使いが悪すぎるかと。」
16年間生きてきて、はっきり言って初めての愛の告白をされたあたしの頭の中なんてしるわけもなく。
目の前の執事は普段と何ら変わらない。
「あー、うん、わかった。お見合いなら、あたしからパパに断っておくから」
ガタン、と音を立てて椅子から立ち上がると同時にハイセを振り替えれば。
少しだけ不服そうに眉間にシワを寄せてはいるが。
『音は立てずにお立ちください』。
普段なら確実に出てくる小言は飲み込んだようだ。
ほ、と、小さく安堵のため息を気付かれないように吐き出し、すぐに自室へと足を向ける。
が。
「それは僕との結婚を承諾して頂けたと受け取ってよろしいのですよね?」
当たり前のようについてくるハイセに、イラつきさえ覚えてくる。
「だから、なんでよ」
「…………ですよね」
はぁ、と短いため息には気付かないふりして自室のドアへと手を伸ばす。
とりあえず、早く逃げたい。
なのに。
あろうことかこの男、人の自室のドアを背凭れに、腕組みまではじめたのだ。
何度も言うが。
この男はこの家に支える執事で。
あたしはこの家の一人娘。
たぶん、間違ってもこんなことをしていい間柄ではないはずなのだ。