第5章 愛されて頂けますか
「………少し、よろしいでしょうか」
軽く笑顔で会釈、して。
あたしは重苦しいこの場の空気からも、着物からも、逃げ出すために席をたった。
「はぁ」
帯がお腹も胸も締め付けて、ため息するのさえ息苦しい。
こんなお見合い、なんの意味があるの。
あたしに拒否権なんてくれないくせに。
だったらいっそ。
『彼が今日からお前の夫だ』
とか、言われた方がめんどくさくなくていいのに。
「ハイセの、馬鹿」
何が、『好きです』よ。
『お慕いしています』、よ。
あたし今日婚約させられるのよ。
結婚、しちゃうのよ。
鏡の中にうつる、ハイセの面影に手を伸ばして。
「映画みたいに、奪いにきなさいよ、ばかハイセ」
そう。
口から小さく、漏れた。
瞬間。
ガチャリ、と。
真横の扉が、開いた。
「もちろん、そのつもりでございます」
え。
「お嬢様」