第1章 僕と結婚していただけませんか
「そーゆーわけですのでお嬢様、僕と結婚して下さい」
「どーゆーわけよ」
にっこりと微笑む性悪執事に、睨む気力さえ残ってない。
「パパが戻ったら、全部話すわ。あたしは好きな人などいないもの。」
「困りましたね」
「………何がよ」
「嘘がバレてしまってはさすがにクビになってしまいます」
「自業自得じゃない。だいたいあなたなら、どこだって引く手あまたでしょう?」
「それは否定致しませんが」
しないのかよ。
「お嬢様」
さっきまで目の前にいたはずのハイセは、いつの間にか後ろに回り込んで、後ろからあたしの右腕を丁寧に掬い上げている。
なんなの、この身のこなし。
早すぎでしょ、ハイセさん。
「でしたら」
ハイセは、わざとらしく下からあたしの掬い上げた右腕に自分の右手を絡ませると、耳元でわざと低く、囁く。
「僕に恋して戴くまでです」
「…………何言って……っ」
振り返ろうと顔だけでハイセを見上げ見れば。
いきなり唇に、柔らかいものが触れた。
「……………っ」
同時に。
ガチャリ、と、部屋の鍵の閉まる音。
「さぁ、お嬢様、お勉強のお時間です」