第6章 お勉強の、お時間です
「これくらいで、止めておきます。今は」
「は、は?」
『今』、は?
「これからたっぷりと、教えて差しあげますので」
「ハイセっ?」
「すぐに真っ赤になって、可愛いですね、ほんと」
「ハイセっ」
あはは、って笑って。
向かいの席へと戻るハイセの背中を睨みあげる。
きっとそんなあたしの視線にも、彼は気付いているんだろうけど。
ハイセのやることには全部、意味がある。
『結婚、していただけますか』
始まりはそんな一言だった。
あれから、あのときからすでにハイセの計画は全て始まってたんだ。
少しずつ少しずつ。
ハイセはあたしの心へと入っていく。
いつの日か彼で埋め尽くされる瞬間を、彼は知っていたんだ。
あたしの、気持ちも。
使用人のみんなにあたしとの接触を制限したのも。
歪んだ不信感を持つあたしから、大人に対する不信感を取り除くため。
幼いあたしの心をこれ以上、傷つけないため。
ねぇハイセ。
あたしの考えすぎかしら。
きっとハイセは、昔からそうやってあたしを守ってくれていたのね。
たぶん、完璧すぎるあなたなら。
『違いますよ』
って、否定するかしら。
あたしわかったんだよ。
完璧すぎるハイセの欠点。
『完璧な自分』。
それがハイセの、欠点だと思うわ。