第1章 僕と結婚していただけませんか
恭しくひざまづいた片膝を伸ばし、今度は真上からあたしをのぞきこむハイセ。
「お嬢様が、紫色のランドセルを背負っておられる頃、ですね」
ぞ、わー、って。
全身が粟立ったよ?
待って待って待って。
しかもそれ、そんな眩しい笑顔ひけらかして言う内容ではなくてよ?
おかしい。
絶対この男、おかしい。
「お嬢様が高校生になられるのを、ずっとお待ちしておりました」
ああ、ヤバい。
いくらスペック持て余していても。
顔面偏差値が驚くくらいに高くても。
人間誰しも、必ず欠点があるものなんだ。
そんなことを理解した、16年目の夏。
あたしはたぶん、ひとつ大人の階段を登った、はずだ。
「ハイセ」
「はい、お嬢様」
「そこまで慕われているところ悪いけど、あたしは一応この家の一人娘、あなたは確か、執事だったわね?」
「左様でございます」
「残念だけど、パパが許してくれないわ。さっさと見合いでもなんでもしてしまいなさい」