第5章 愛されて頂けますか
「それなりに悪さもしたし、遊びもそれなりに覚えました。お嬢様に会ったのは、高校を卒業して、まもなくです。バーで知り合った女性と一夜を共にして、そしたらその女性、既婚者で。いわゆるヤバい人の奥さんで。さすがに死ぬかと思いました。無抵抗の人間ここまで殴るのかー、とか」
「…………」
珍しく饒舌になるハイセの言葉に、おとなしく耳を傾けた。
こんなに自分のことを話すのは、あたしが知ってる中でたぶん、初めてだ。
「で、さすがにやばくなって動けなくなっちゃって。そしたら、お嬢様が目の前に現れたんですよ」
『何してるの?』
『ごみ捨て場よ、ここ』
『あなた捨てられたの?』
『あたしが拾ってあげるわ』
「『うちへいらっしゃい』、って。小さくてきれいな掌を僕に差し出したんです」
赤信号。
横断歩道一番手前で車が停車すると、ハンドルに顎を寄せたまま、彼はそう、あたしに笑顔を向けた。
「それからすぐに、旦那さまから正式にお嬢様の執事として雇われました」
『これでもう、迷子にならないわね』
『この家が、あなたの新しいお家だもの』
あ、れ。
なんだか。
そーいえばそんなこと、あった、かも?