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【とうらぶ】我が家の燭さに【短編集】

第7章 夜を生き抜くのは難しい



「風が強い夜はちょっと苦手なんだ」

子供の頃、大きな根拠は無いが恐怖と不安を覚えてしまった、と...いつだったか困ったように笑った顔をふと思い出す。

本丸の景趣は審神者によって制御されているがここは自然な四季が織り成されている。
ただ、定められるのは”四季”だけで細部までは手を施すことが出来ないらしい。
例えば日差しの強さや曇り空に突然の雨、暑さ寒さに風の強弱...等々
予測ができない、本来の気候がそのままに現れるのだ。

だから、今夜のように戸を音を立てて揺らす強風は主にとっては眠りを妨げるものになるだろう。
夕餉の後片付けと明日の朝餉の仕込みを終えると、専用のマグカップでホットミルクを作った。蜂蜜が苦手だと言っていたから、お砂糖で甘さを加えて。
今頃一人で不安と戦いながらいるのだろう、いい歳をして恥ずかしいからと他の誰にも言わずにいた彼女のちいさなちいさな弱み。
長く近侍を務め、恋仲である僕ですら知ったのは本当に最近の事だ。

「甘え下手さんなのも可愛いけど、ね」

思わず笑みがこぼれる。
そんな僕にも、ちいさなちいさな弱みがあった。
希に、本当に希だけれど...夢に見る過去。
何度汗だくで飛び起きたかわからない、今は”僕自身”も安全な場所に保管されているとはいえ、あの日の事は忘れる事は出来なかった。
それなのに、彼女はただ黙って震える僕をずっと抱き締めてくれていた。何も聞かず、問わず、ただ静かに。

それがどれだけ有難かったか
どれだけ心強かったか

その大きな不安や恐怖感も笑わずに受け止めてくれた安心感も僕には全て、分かるから。

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