第1章 夏が好き
「この時期は本当に嫌」
澄み渡るような空の青に強い日差し
この時期特有の暑さ、それよりなにより君を悩ませているのはその体質だった。
この本丸で迎える2度目の夏
僕ら刀剣にとっても2度目の夏
太陽の光にあたるとその皮膚が炎症を起こしてしまうという病を患っていると聞かされたのは最初の夏で。
此処の季節は景趣で自由に変えられる筈なのに何故かそれをしない君には、きっと現世の四季に馳せる思いがその心にあったからなのかと今は思う。
「光忠さんも遊んできていいんだよ?」
「僕に君を一人ぼっちにさせろっていうのかい?」
質問に質問で返せば、ふ、と君が笑った。
庭では短刀くんや脇差くん達が仲良く水遊びをしたり、スイカ割りをするんだと息巻いていた。
ああ、鶴さんが縦に半分に割った長い竹を持ち出して御手杵くん達と何か作っているね。
流しそうめんというものを主から聞いてから、興味津々な彼に大量のそうめんを茹でさせられたのには骨が折れたよ。
今からそれをするらしい、そうめんがのびてなきゃいいんだけどね。
でも僕は主の隣から動く気にはなれなかった。
夏にはあまり良い思い出がないとそっと呟いた時の君の顔がどうしても忘れられなかった。
本当は皆と思い切り庭で遊びたいだろうに、庭が見渡せる部屋にそっと佇む君を一人にさせたくなかった。
僕にも、夏には良い思い出がない。
と言っても、その時は今のこの身などなかったけれど。
…焼け焦げたのは、今日みたいに酷く暑い日で
僕はまだ生きているのに此処にいるのに
見つけて貰えず暗い暗い場所にずっと閉じ込められていた。
今本丸でこうしている事が、たまに夢を見ているんじゃないかと思う時がある。
でも、それがまやかしじゃない
夢なんかじゃないと教えてくれたのは何時だって君だった。
たまに思い出す炎の熱さ、恐ろしさ
怯える僕に呆れも笑いもせずにずっと黙って傍にいて、抱きしめてくれていた。
「ねえ、主」
「うん?」
「僕はこの時期、嫌いじゃないよ」
「…光忠さん」
「夜は花火をしようよ、君も浴衣を着てさ!」
君の綺麗な白い肌にはきっと、どんな色でも似合うはずだ。なんなら髪飾りも調達して、ああ、花壇に咲いていた松葉牡丹も悪くないね。
普段めったに贅沢をしないんだから、たまには着飾ったっていい。何より、僕が見たい。
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