第1章 『野良猫ギャンブラーの手懐け方』有栖川帝統 R18
頭を冷やすために入ったお風呂。
出れば、待ち構えたようにベッドに座っている帝統を見て私は浴室に逆戻りしようとする。
「おい待てって!逃げんな!」
「逃げてなんか…」
冷やされたはずの頬がまた赤みを帯びる。
それを見た帝統はにやりと笑っている。
「髪、拭いてやるから来いよ。」
昨日のお返しと言われてしまえば行かざるを得ない。
タオルを頭にかけると、私は帝統がかいた胡座の上に背を向けて腰をかけた。
体育座りをしながら帝統がやることに身を任せる。
優しい、大きな手。
心地よくて目を瞑っていれば、床に置いた左手に重なる温かいもの。
目を開けば左手には帝統の手が置かれている。
「ぴったりだったな。」
顔を見なくてもわかる、暖かくて優しい笑顔。
重ねられた手は私の薬指をなぞる。
ぶわり、顔に熱が灯る。
「これっ!博打のお金?」
「んなわけねーだろ。イケブクロディビジョンの山田一郎のとこで何日か。」
「ちゃんと働けるんじゃん。」
ギャンブルで借金ばっかりこさえてるくせに…と毒づきそうになるが今は言う必要のないことなので口を紡ぐ。
髪の毛を拭いていたはずの手。
それはいつの間にか私の体をぎゅっと包む。
嗚呼、なんか焦れったい。
くすぐったい。
「ね、私肝心なこと聞いてない。」
どくん、どくんと胸が高鳴る。
抱きしめられた腕に
握られた手に
力がこもる。
「えっと…
ちゃんと1発で聞きとれよ?」
緊張した、少し上ずった声。
帝統も同じ気持ちだろう、そう信じて、私はそっと目を瞑った。
「俺…夏乃が………」
今度こそ本当にend