第1章 『野良猫ギャンブラーの手懐け方』有栖川帝統 R18
ピンポーン。
鳴った玄関チャイム。
ぼやりとする頭で枕元のスマホを覗けば時刻は頂点(てっぺん)をとうに超えている。
アイツか。
はあとため息をつき、私は何度も鳴るチャイムに向かって歩き出した。
「五月蝿い。」
ドアを開ければ、わりいわりいと明るい声が降ってくる。
目の前の男…有栖川帝統(ありすがわ だいす)はギャンブル好き…むしろ依存症レベルでギャンブルを愛する男だ。
ほとんどの割合で持ち金をすってんてんにしてしまうため、よく私の家にご飯をたかりに来る。
食事のお礼、との名目で自らの性欲も解消していくから困りものである。
帝統は悪びれる様子もなく、お邪魔しますとそのまま部屋に入ろうとしたから、一歩踏み出した足を裸足で踏みつけてやった。
「…え?夏乃…チャン?」
「今日はどうしたんですか?こんな、夜中に。」
"こんな"と"夜中"を強調して言えば、流石に怒っていることに気がついたのか一歩、二歩と後ずさりを始める帝統。
しかし私が片足を地面に縫い付けているため、帝統は動けない。
「え…?夏乃チャン…怒ってる?」
「は?今何時だと思ってるの?アンタは。」
「えっと…」
時間を知る術の無い帝統に私のスマホを見せつければ、帝統は画面に映った時間を読み上げた。
「にじ、よんじゅうさんぷん、です。」
「そうね、普通の勤め人なら寝ている時間よね。」
「はい、そうです。」
「じゃあ、言わなきゃいけないことがあるんじゃないかしら。」
そう言って自らの足を帝統の足の上から退けると、帝統はぴょぴょーんと猫のように後ろに飛び跳ね、冷たい通路に膝をつける。
「真夜中にすいませんでしたー!!!博打で全財産スったので泊めてくださーい!!!」
でた。
いつもの土下座。
お金がなくなるたびに帝統は"これ"をする。
この姿を何度もなんども見てきた。
それでも冷たくできないのは、私は彼に好意があるから。
でもそれに気づかれたら彼は私には寄り付かなくなる。
ただの友人。
それが性に合ってる。
「さっさと部屋に入れば?食事も取ってないんでしょ?簡単なもの作る。」
そう言ってドアを大きく開けば、床に丸まっていた帝統はにかりと笑いながらお邪魔しますと部屋へと足を踏み入れた。