第8章 真実
しばらく時間はたっただろう。
月の光が、俺たちを照らす。
ユカは、少しずつ気持ちが落ち着いてきたようだった。
そして、話し始めた。
過去のことを。
物心つく頃、知らないおじさんに手を繋がれて、
ヘレナおばさんの家に連れて行かれたこと。
ヘレナおばさんは、結婚しておらず、一人暮らしで、
自分の娘のように育ててくれたこと。
友達が居なかったわたしに、
おばさんは、草木や風の声を聞きなさいって、
よく言っていたこと。
たくさんの愛をくれた、幸せな日々。
だけど、長くは続かなかった。
強盗と鉢合わせてしまった、おばさんは、
そのまま殺害されてしまった。
強盗犯は、その後自殺した。
本当に独りぼっちになった時、
ヘレナおばさんが残してくれた、
手紙と財産、
そして、無くした時に仮発行される住民票があって、
なんとか生きてこれたこと。
その仮の住民票は、ヘレナおばさんが上手く口実を作って、
ユカの戸籍偽装をはかったものだった。
何度も使えないが、いざという時だけ使用しなさいと。
それで、職を得たという。
そこから、薬草に詳しかったことが幸いして、
今のマスターの紅茶屋に行き着いたと。
だけど、戸籍がないことが、いつバレるか心配で、
親しい友人さえ、作らなかった。
そんな時に、捨て犬のオトを拾い、
初めての家族を作ったと。