第5章 笑顔の裏に恐怖
「個性を使って世界を変えても良いんだ。その個性は玲奈が好きなように使ってほしいから僕は使わなかったんだ」
お父さんが使えば、既にこの世界はお父さんの理想の世界に変わっているはずだ。
なのに、お父さんは使わなかった。
全部、私を思って……。
「その個性をいつ使うか、玲奈の自由だよ」
『お父さん……』
顔も見たことがないお父さんの声はいつも優しくて大好きだった。だけど、ヴィランであることが嫌だった。
ヴィランはヴィランでも、お父さんはお父さんなんだ。
「もう少しこの世界に居て、出久君が恐ろしいと思えば、一緒にヒーローになれる世界に変えても良い。でも、その時は記憶を無くしてしまう」
『えっ……』
「そこまで大きく世界を変えてしまうとね。怪我を治したり、自分の足を速くしたりするくらいではならないよ。この個性は思うがままに使えるからね」
本当に強個性だと思った。自由に使っても代償は出ない。しかし、世界全て変えようとすると記憶を無くす。
ますます難しい話になってきた。
「玲奈。少しでもこの世界を楽しんで行けば良いよ。僕は仕事があるから失礼するね」
お父さんとの通信が切れた。