第9章 花京院典明 3
こんこん。
「入るよ。」
返事を待たず、私とおじいちゃんは承太郎の部屋の中に入る。部屋の中には、アヴドゥルもいた。
「承太郎、アンナを連れてきたぞ。食事もすんだことだし、傷を治してもらえ。」
それだけ伝えると、おじいちゃんはアヴドゥルを連れて茶室へ戻っていった。
部屋には私と承太郎の二人だけ。
「お帰り、承太郎。」
「おう、おはよう。」
そう言うと、承太郎はニヤリと口角をあげた。
私がずっと寝てたこと、おじいちゃんから聞いたな。でも、傷を治すことが優先なので軽口は相手にせず話を続ける。
「学校でずいぶんと無茶したみたいだね。おまけにスタンドで肉の芽を引っこ抜いちゃうなんて。」
「…じじいから聞いたのか?」
「ううん。花京院から聞いた。食事持っていったときに、せっかくだから一緒に食べようと思ってね。そのついでに、少し話して怪我を治していたのよ。」
そう言うと、承太郎は私の方をちらりと見た。
「大丈夫。彼の傷、そんなに深くなかったわ。今日ゆっくり眠れば明日には体力も戻っていると思う。さ、今度は承太郎の番よ。傷を見せて。」
承太郎は私が治しているのを黙ってみていた。
承太郎が何も話さないのは、怒っている訳じゃなくて敢えて口に出さない性格なだけ。だから承太郎といるときは無理に話題を探したりだとか、余計な気遣いをしなくて良い。私はこの沈黙がわりと好きだったりする。