第54章 幕間 5
予想の斜め上の回答をする花京院に、ポルナレフは思わず声が裏返った。
呆然としているポルナレフを見て、花京院はバツが悪そうに言葉を吐いた。
「すまない、冗談のつもりだったのだが…。」
「お、おう。」
ポルナレフは何と言えばよいのかわからず、絞り出すように返事をする。
「でも僕はその、いわゆる恋というものをしたことがないんだ。だから、色恋で苦労したことがないというのは本心だ。」
遠くを見るような眼差しで、花京院は話を続けた。
「スタンドの存在を理解できるのは僕一人だと思っていたからね。愛し愛される関係に憧れがないと言えば嘘になるが、どこか他人事だったんだよ。」
「なら、今なら相手がいるじゃ…『ポルナレフ。』」
花京院は低いトーンでポルナレフの話を遮った。
鋭い眼差しに、ポルナレフは自分が失言したことを悟る。
「僕は確かに“スタンドが見えない相手とはわかりあえない”と言った。だが、”スタンドが見えるから好きになる”のは、相手に失礼だろう?」
「そ、そりゃそうだけどよ。」
ポルナレフには、花京院が「自分は恋をしてはいけない」とと言っているように聞こえた。孤独を抱えてきた花京院は、今までそうやって色々な感情を抑えてきたのだろう。
(なんか、つくづく似た者同士じゃねぇか…。)
「それなら、スタンドが見えるやつの中で、人間的にも愛せるやつが現れれば問題ねぇ話だろ?」
今までそんなふうに考えたこともなかったのか、花京院がキョトンとした顔になる。
「そ、そうなの…か?」
「俺に聞くなよ!」
(“恋愛は他人事だった”というのは、どうやら本当らしいな。)
今日はこれ以上話しても先に進まないと悟ったポルナレフは、眠ることにした。
「悪かったな、いきなり変な話持ちかけてよ。」
「い、いや。気にしないでくれ。」
そういう花京院はどこか上の空だった。
今日の話で花京院の心境に何かしらの変化があることを祈りながら、ポルナレフは寝袋へと向かった。