第47章 女帝と水の聖杯 6
承太郎がタバコを吸いに行ってしまったので、今、 僕はアンナさんと二人きりだ。
アンナさんの手当をするべく、公園に来てベンチに腰を下ろしている。
僕は、彼女の腕に傷が残らないよう、ゆっくり丁寧に消毒をしていった。
こうして二人でいると、シンガポールで一緒に出掛けたことを思い出す。
あのとき、アンナさんを部屋に迎えに行ったとき、彼女はどこか元気がない様子だった。
それがたまらなく心配で、とにかく元気をだして欲しくて、僕は柄にもなく『ハニー』なんて言葉を使ったんだった。
考え事の真っ最中に、突然温かいものが頭に触れて、思わず肩が上がる。
でも、僕の前髪をくるくると丸める仕草で、それがアンナさんの手だとすぐに分かった。
「花京院。あなたにお礼を言いたかったのよ。あなたがいてくれて良かったわ、ありがとう。」
子どもをあやすような穏やかな口調。
顔を上げると、やっぱりアンナさんは優しい笑顔を僕に向けていた。
ほんの少し近づけば、鼻先が触れそうな距離。
長いまつ毛の奥には、ジョースターさんや承太郎と同じエメラルド色した瞳に僕が映っていた。陽の光を反射して宝石のようにキラキラと光る彼女の瞳から、なぜか目をそらすことができない。
何か、何か話さないと。
そう思って彼女の名前を呼ぶと、アンナさんはいつの間にか出てきていたハイエロファントに目を向けていた。
無意識のうちに、ハイエロファントを出していたのだろうか。
勝手に出てきたハイエロファントは、アンナさんの方へとすり寄っていく。
僕の頬に触れていたアンナさんの手は、ハイエロファントの触脚を撫でていた。
アンナさんはまるで子供をあやすような手付きで、ハイエロファントをそっと撫でている。
いまだに触れられていた頬がまだほんの少し熱いのは、彼女の手が温かかったからだろうか。
ハイエロファントは嬉しそうにアンナさんと戯れながら、僕の方にも触脚を伸ばしている。
その手は、まるで僕に『早く伝えろ』と言っているようだった。