第45章 女帝と水の聖杯 4
「もう残り何分とないわ。賭けは私の勝ちになりそうね。」
あれからすでに20分以上が経過している。
カップのスタンドの中は思ったより広く、ハイエロファントはまだアンナさんを見つけられなかった。
僕が見張っているからか、それとも本当に肉体に手を出すつもりはなかったのか。
アンナさんと承太郎は、傷つけられることもなく無事だった。
「なのに、あなたの顔に曇りは全く無い。これじゃちっとも面白くないわ。」
女は退屈そうに、アンナさんと承太郎の魂が入ったカップの縁を指でなぞっている。
「…あなた、彼女を愛しているのね?だから最後まで信じたい。なんて健気なの。そういうの、私好きよ。」
「貴様はアンナさんを知らない。ただそれだけだ。」
「強がっちゃって。知らないのはあなたの方よ、花京院。彼女はまるで悲劇のヒロイン。彼女は交通事故で家族をなくしている。スタンドのおかげで彼女だけが助かった。」
女は僕の方に近づくと、僕の方に近づくと頬を指でなぞった。頬をなぞった指は首へ、胸元へと下がっていく。
まとわりつくような手付きにゾクリと鳥肌が立った。
人質を取られた状態では引き離すこともできない。
僕は不快感でただただ顔をしかめた。
「アンナは自分のせいで家族を死なせてしまったという十字架を背負っている。そんな彼女がもう一度、自分の家族に手をかけることなんてできるのかしら。」
無理に決まってるわよね、と女は高らかに笑った。
バカにしたような笑い方に、怒りでわなわなと手が震える。
「知らないのは貴様の方だ。貴様は事前に得た知識だけで満足し、彼女自身について知ろうとしていない。後で後悔することになるぞ。」
その時、ハイエロファントの触脚が温かいものに触れた。
小さいくて温かい、…アンナさんの手だ!
彼女が優しく撫でられて、ハイエロファントが喜んでいるのが伝わってくる。
僕も案外単純だな。
ほんの少し彼女の指先に触れただけで、こんなにも機嫌が戻ってしまうのだから。
「貴様は彼女を知らない。彼女の強さを。それが命取りになるということを思い知るがいい。」
アンナさん、あなたに話したいことがあるんです。
あなたに謝らなくてはならないことも、聞きたいこともたくさんあるんです。
だから、早く出てきてください。