第44章 女帝と水の聖杯 3
「随分と悪趣味な敵スタンド使いだこと…。」
「ああ、その通りだ。」
頭上で見知った声が聞こえた。
「承太郎!?あんたまで私の夢に来てくれたの?」
「やれやれ。これは夢じゃねえ。」
承太郎は今の状況をざっと説明してくれた。
これはスタンド攻撃で、目の前のみんなは私の願望が生み出した幻。
ここから出るには、彼らを自分の手で殺すしかないということを。
「…ーというわけだ。」
「全員を殺せ、ね。わかった。承太郎、あんたも、こんなところまで来てくれてありがとう。」
私の家族やアヴドゥルは、承太郎にとっても大切な人たち。
私を助けるためとは言え、優しい承太郎が彼らの姿を見て何も感じないわけがない。
私が承太郎の顔を見上げると、私の目をじっと見つめていた。
不安の色をのぞかせて、いつもより目元にシワが寄っている。
「大丈夫よ、承太郎。お姉さんに任せときなさい。」
私はソードマゼンダで体を浮かせ、承太郎の頬にキスをした。
少しでも安心してくれるように、できるだけ優しく。
「私はね。あんた達を守るためなら、どこまでも強くなれるのよ。ここを出たら、二人で敵スタンド使いをオラオラしてやりましょう。」
「ふっ。やれやれ。」
冗談めかして言うと、承太郎はようやく笑顔を見せてくれた。
承太郎の頭を撫で、家族とアヴドゥルがいる方に体を向けて歩き出した。
危険と隣り合わせのこの旅。
DIOの恐怖に感化されていたせいかしら。
自分のせいで誰かが傷つくのが怖い。呪いのようにそう思っていた。
でも、あの日の事故で感じたのは恐怖ではなく、己の無力に対する悔しさ。
あの日の弱い自分には戻りたくないって思っていたはずだった。
皮肉にも、敵スタンドの攻撃でー家族の顔を見てーそれを思い出せたわ。
私のスタンドは『治す』スタンド。人を守るときにこそ真価を発揮する。
さあ、二人を助けるのよ、アンナ・ジョースター。私ならできる。
私は覚悟を決めて4人の前に立った。
「見殺しにしたくせに…。」
「また私達を殺すつもり?」
母も父も涙を流して私を引き留めようとしてきたけれど、不思議と迷いはなかった。
私の大好きなみんなは、そんな事言わないってわかっているから。
父さん、母さん、お姉ちゃん、アヴドゥル。ごめん。
私はソードマゼンダで、一思いに全員を葬った。
