第37章 皇帝と吊られた男 5
「え?」
二人が驚いた表情でこちらを見ている。
でも正直なところ、一番驚いているのは僕自身だった。
無意識に口から出てしまったので、自分で自分が何を言ったのか理解するのに数秒かかった。
まずい…。
撤回しようと言葉を考えている間に、ポルナレフが彼女を抱えたままズンズンとこちらに近づいてきた。
「ま、こんな状態のアンナに治療を頼むわけにもいかねーしな。そういうことなら助かるぜ、花京院。」
ポルナレフは僕の言葉に何の疑いも持たず、アンナさんをこちらに引き渡そうとしている。
僕の目の前で立ち止まり、「ほれ」と抱えているアンナさんを僕に差し出した。
ポルナレフに言われるままに、彼女を抱き上げる。
彼女の体は想像以上に軽く、女性特有の柔らかな感触をしていた。
友達すらいなかった僕は、当然のことながら母親以外の女性に触れたことなど無に等しい。
ここにきて、自分で言ったことをようやく理解し、一気に顔が熱くなる。
アンナさんは、僕に抱っこされるのが嫌ではないだろうか…。
ふと不安になり、彼女の顔をチラリと見る。
当のアンナさんは未だに何が起きているのかわからないといった表情で、口をパクパクとさせていた。
その表情が、まるで突然人間に拾われた子犬のようで僕は思わず吹き出してしまった。
「ブフッ!」
「か、花京院!?」
僕の笑い声でハッと意識を取り戻した彼女は、すぐに真っ赤になって頬を膨らませた。
「ちょっと!人の顔見てなに笑ってるのよ。」
そう言う彼女は言葉に覇気がなく、怒っているわけではないとすぐに分かった。
「ヒ・ミ・ツですよ、ハニー。」とおどけてみれば、彼女は更に顔を真っ赤にした
「おい、準備ができたならさっさと戻るぜ。」
「ふざけている時間はないわよ、花京院!」
そう言うとアンナさんは白く細い腕を僕の首元へと回した。
「頼りにしているからね、ダーリン。」
耳元で囁かれて、僕は思わずドキッとしてしまう。
彼女には色々な意味でかなう気がしない。
「なんてね。」と軽口を叩く彼女に、ふざけているのは君じゃないかと心の中で悪態をついた。
先に歩き始めたポルナレフとかなり距離ができてしまい、僕たちも急いで後を追う。
その頃には、先程のドロドロとした感情は全く気にならなくなっていた。