第31章 火の棒と大地の金貨 3
あれから5分はたっただろうか。
アヴドゥルさんが去ったあとも、彼女は変わらず僕の髪を撫でている。さっきまでは寝たふりをしようと必死だったが、意識すると急に恥ずかしくなった。顔に一気に熱が集まるのを感じる。
いい加減起きようとタイミングを伺っていると、アンナさんが歌い始めた。
"青いバラ探そう 砂漠に咲くバラよ
何も見えない夜には 星たちを眺めて
右手には月を 左手にはあなたを
優しく抱えて 壊れぬように
青いバラ探そう 忘れられぬ花"
聞いたことのない歌だった。アンナの歌声と歌の物悲しい雰囲気が、ぴったりで思わず聞き入ってしまう。
歌が終わると、僕は上体を起こしアンナに声をかける。目を開けると、いつの間にかあたりは真っ暗になっていた。
「素敵な歌ですね。」
「あら、花京院起きてたの。」
アンナは驚いた顔をして、それから僕を撫でていた手を離した。アンナに触れていたところが少しだけ熱い。
僕はそれを誤魔化すように話を続けた。
「きれいなのに、すごく切ない気持ちにさせる歌ですね。なんていう歌ですか?」
「ブルーローズよ。そのまんまでしょ?」
アンナはクスッと笑って立ち上がり、デッキの手すりの方へと歩いていった。
僕も彼女の後を追って歩き、アンナの隣に並んだ。潮風が心地よく吹き、頬の熱を冷ましていく。
僕は改めてアンナの方を見た。
星空を見上げる彼女の瞳は、まるでプラネタリウムのように光を反射していた。