第31章 火の棒と大地の金貨 3
朝日を背に、僕たちはホテルへと戻っている。
アンナは下を向いて歩いていて、何も話さない。
彼女は自分自身を治すことができない。
僕の足の傷やパジャマは元通りに治してもらったが、僕よりも小さい彼女の体はところどころ青あざができたままだ。
それを見ると、もっと早く駆けつけていればと思ってしまう。
その反面、僕がみたアンナが幻覚だったらと思うとゾッとする。
注意が必要なのは僕も同じか。
それにしても、
あんなに必死になったのはいつぶりだろう。
気がついたら走っていた。そんな感じだった。
後先考えず闇雲に飛び込むなんて、自分らしくない。
彼女といるといつも調子が狂ってしまうな。
そんなことを考えているとふいに肩を叩かれた。
「アンナ?どうしま…??」
言い終わる前に、頬を指でつつかれる。
「ふふ。そういえば、ほっぺたはまだ治していなかったなと思ってさ。」
ソードマゼンダとアンナが指を離すと、頬の痛みは消えていた。
「それにしても花京院、こんなのに引っかかるなんて油断し過ぎじゃあないかね?」
人に注意してたくせにと、彼女はいたずらっぽく笑った。
無防備な笑顔に、つられて僕も笑ってしまう。
「そうですね。スイートハニーの笑顔を守れて、少し気が緩んだのかもしれません。」
彼女がこの手の冗談が苦手なのを、僕は知っている。
「ちょっと。まだその恋人設定を引っ張るつもり?それで朝帰りなんてことになったら、おじいちゃんがマジに切れるわよ。」
きっと顔を真っ赤にして慌てるだろうと思っていたが、彼女は顔色1つ変えていなかった。
「確かに、ジョースターさんなら有り得そうだ。」
彼女の様子に少し違和感を覚えながらも、それを悟られないよう言葉を返した。
それから僕たちは、何事もなかったように部屋へと戻り、数時間後にはインド行きの船に乗って出発した。
その頃には、彼女が僕の冗談を平然と切り替えしたことなどすっかり忘れていた。