第30章 火の棒と大地の金貨 2
この後2人には少し眠ってもらい、船に乗せて川に流した。
「スタンドがあるから船から出るのは簡単だろうけど、もうこれに懲りて追っては来ないよね。」
「それに、この川の先はジャングルの奥地だから3ヶ月では出てこられないだろう。」
少し気の毒な気もするが、再起不能にして街でトラブルになるよりはましかな。
「ところで、さっきのことですが。」
そう言うと花京院は足を止めて私の方を見た。私も思わず足を止め、彼の方を振り返る。
彼の険しい表情を見て、怒っているのだと直感した。
「僕が偽物か確かめたということは、君は偽物の僕を追って屋上まで行ったわけですね?」
やっぱりそのことか。昨日の今日で、まんまと同じ罠にハマったわけだものね。
自分の軽率さが嫌になり、俯きながら答えた。
「その通り、完全に私の過失だったわ。ごめんなさい。」
「怒るつもりはないです。ただ、この旅はいつ何が起こるかわからない。怪我ですまなかったらどうするんです?」
そう言われてようやく花京院の方を見ると、彼は裸足でパジャマのままだった。
屋上に上がる私をみて、大急ぎで部屋を飛び出してくれたんだろう。
「僕も含めて、あなたに何かあったとき悲しむ人がいるということを忘れないでください。」
花京院の目は真剣そのものだった。
こんなに汗だくになって、足からはところどころ血を流して。
どれだけ必死になって駆けつけてくれたんだろつ。
一体どれだけ心配をかけてしまったのだろう。
恋愛感情でなくても、彼は私を仲間として認めてこんなに思ってくれている。
それなのに、私1人で浮かれてしまって。
そんなことをしている場合じゃないのはわかっていたはずなのに。
自分の愚かさを痛感する。それと同時に、花京院への申し訳なさで涙が出そうになった。
「心配かけて、ごめん。」
嗚咽をこらえてそう言うのが精一杯だった。
花京院が好き。
この気持ちは、本人に伝えなければ迷惑にならないと思っていた。
でも敵は、そんなスキだらけの心を狙ってくる。今回は花京院が来てくれたからよかったものの、いつかみんなを危険に晒すことになりかねない。
私は唇をぎゅと噛み締めた。
そして、初めて芽生えた恋心は封印すると誓った。
「僕たちも帰りましょう。少しでも体を休めないと。」
「う、ん。」
そして私達は何も話さずホテルへと戻った。
