第29章 火の棒と大地の金貨 1
翌日私たちはインドへ向かうために、特急列車に乗っていた。
食堂車でお昼を食べ、一息つく。
「いよいよインドへ向かうか…。ところで、あの女の子はどうした?」
「列車出発の間際までシンガポール駅にいたんだがな。」
「アンちゃん…。」
遠い目をして窓の外を見る。
「寂しいかい、アンナさん?」
ため息をついた私に花京院が問いかける。
「そうなのかも。」
「女の子同士だもんなぁ。」
遠い目をしているのは寂しいからじゃなくて、隣に座っているあなたが要因なのよ。とは言えなかった。
アンちゃん。
良くも悪くも、ちゃっかりした子だったわ。お陰で知りたくなかった気持ちに気づいてしまった。
シンガポールにいた偽花京院のスタンド使いの話をする高校生二人を、黙って見る。
前まで何とも思わなかったのに、今は隣に座るだけで心臓が張り裂けそう。
ろくに恋をしてこなかった私には、その手の免疫が全くないと言うことを痛感する。
「ジョジョ、そのチェリー食べないのか?」
「がっつくようだが、僕の好物なんだ。くれないか?」
「ああ。」
サンキュー、とお礼を言うと花京院はそのチェリーを舌の上で転がし始める。
レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ…。
予想外の行動に、承太郎が珍しくドン引きしている。
その承太郎の傍らで、そんな姿さえかわいいと思ってしまっている私は重症だろうか。
「やれやれ。」
その言葉は花京院に向けられていたのか、それとも花京院を見て微笑む私に向けられたのか。
恋は盲目と言う言葉の意味を、生まれてはじめて実感した。