第28章 黄の節制 2
「入るわね。」
そう言ってドアを開けると、花京院は驚いた顔をしていた。
「アンナさんがどうしてここに?」
「何?私だと不服なの?」
「いえ、ただアンちゃんが来ると思っていたので驚いたんです。」
「あの子のために代わったのよ。」
そう言うと、花京院は納得したようだった。
夜も遅いので、お互い自分のベッドに入る。
「だとすると、承太郎は大変だろうね。」
「あの子のことだから、外野は気にせずマイペースにやってるわよ。」
「確かにそうですね。」
思い当たる節があるのか、花京院はくすくすと笑った。
「アンナさんが元気そうで安心しました。」
「どういう意味?」
「アイス屋へ行ったとき、不安そうな顔をしているように見えたので。」
「私、そんな顔してた?」
「ええ。だから、誰かと気晴らしに出掛けたかったんじゃあないんですか?」
あのとき、花京院はわざとふざけてくれたんだ。
毎回助けられてばかりだ。
申し訳なくなって顔をあげると、花京院はすごく優しく笑っていた。
また、心臓の音が加速する。
「誰かじゃなくて、花京院だからかもよ?」
強がってみせるが、それを聞いた花京院はさらに笑う。
「ふふ、それなら光栄ですね。」
手を離さなかったのも、不安がる私に気を使っていたのかもしれない。
でも、その優しさは私を仲間としてしか見ていない裏返しのように思えた。
彼の優しさが嬉しくて胸が熱いのに、
すごく切なくなる。
心配なら抱きしめてくれれば良かったのに。
そう思ってハッとする。
“お姉さんって意外と鈍感なのね”
アンちゃんの言葉がふと過る。
このモヤモヤとした気持ちに、当てはまる言葉を私はすでに知っていた。
「あんな子供に見透かされてたわけか…。」
「アンナさん?」
「ううん、何でもないわ。おやすみなさい。」
私は勢いよく布団を被った。きっと今見られたら、顔が赤いことがばれてしまう。
人のために動ける優しさだってあるし、年下とは思えないくらい芯が強い人とは思う。
でもなんで、今ー。
初めての恋が、思わぬ形でやってきた。
少なくともこの旅においてそんな感情は邪魔になるだけ。これからどういう気持ちで旅を続けたら良いのか。頭のなかを考えが巡り続け、よく眠れないまま朝を迎えた。