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【イケメン戦国】天下の姫君【短編集】

第18章 【明智光秀】雨のち晴れ【R18】


突然降り出した雨に買ったばかりの反物が濡れては困ると甘味茶屋の軒先へ逃げ込んだ桜姫は、真っ暗な空を見上げた。
最近は突然の雨に見舞われることが多く、出歩けない日もあったが、朝からとても良い天気だった今日に、まさか雨が降って来るとは思ってもいなかった。

「傘、持ってくればよかったな」

黒い雲はすぐに去ってくれる様子はなく、いつまでも軒先を勝手にお借りするのは良くないと思い、桜姫は次の行動を思案する。
濡れて帰るにしても、反物は濡らしたくない……。ビニール袋なんて便利なものはこの時代にあるはずもなく、せめて傘でもあればと考えは巡るだけであった。

徐々に濡れがひどくなってくる足元に視線を落とすと、雨が突然に弱まった気がした……。
気がしただけなのは確かである。雨の音が変わっただけで、落ちている雨粒の量は変わっていないのは明らかだった。
ふと見上げれば、傘を差した人物が桜姫の目の前に立っているではないか。

「光秀さんっ」
「こんな所で何をしている。今日は城にいるのではなかったのか、小娘」

やや呆れたような表情を見せながら、光秀は桜姫の持っていた反物が入っている風呂敷包みを取り上げた。
片手に傘、片手に風呂敷を持った光秀は、踵を返すと歩き出そうとしている。

「置いていくぞ、生憎お前を抱いてやる3本目の腕を持ち合わせていない」

そう言いながらも桜姫がきちんと傘に入るのを確認し、彼女が濡れないように傘を傾けるとゆっくりと歩き出した。
手が空いていないと言うので、桜姫が彼の腕に軽く手を回すが、光秀は表情一つ変えることなく前を見て歩く。

「迎えに来てくれたんですか?」
「たまたま、見回りに出ていた所で見つけただけだ」

前を見たまま応える光秀であったが、今日の城下見回り番は政宗であることを知っていた桜姫。
笑みを見せると、光秀の腕にギュッとしがみついた。
今日の光秀の仕事は城勤めであり外回りではなく、城内の自室にいたのであるが、家臣から桜姫が城下へ買いに出かけたと聞いていた。
突然降り出した雨にさすがに心配になったので迎えに来たと言うのが本当のところだ。
そんな事はおくびにも出さない光秀は、桜姫の歩幅に合わせて城までの道のりを歩く。
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