第14章 【徳川家康】良薬口に苦し②【R18】
翌日になり、小鳥のさえずりを耳にしながら目覚めた桜姫は襲い来る激しい頭痛と倦怠感に眉を顰める。コホコホと咳をすれば、隣で横になっていた家康がこちらに寝返りを打った。そのまま抱き留められて、額に添えられた手が冷たく心地よく感じる。
家康の盛大なため息が聞こえるかと思ったが、そのままギュッと抱きしめられて胸にすっぽり包み込まれた。
「だから、無理するなって言ったのに……熱、だいぶ上がってる」
家康が褥から出ていってしまうと、なんだか心細くなってしまうが、すぐに戻ってきて手拭いで汗を拭ってくれる。白湯と薬も用意されていたのは、まるでこうなることが分かっていたかのような行動で驚いてしまう。
苦いから嫌だなどとわがままを言っている暇もなく薬が流し込まれて、再び褥に潜りこまされた。
「今日は、ここで大人しくすること。桜姫の世話は俺がするから、何かあったら言って。我慢は禁物だよ」
桜姫は素直にそれに頷いて、怠い身体を褥に預ける。程なくして寝息が聞こえてきたのを確認すると家康は仕事に取り掛かりながら、本日は登城できない旨の書状を信長に宛てた。
昼時になり、ごろごろと褥の中で寝返りを打っている桜姫に家康が声を掛ける。
「大人しくしてないと、熱が上がるよ」
「だって、もういっぱい寝ちゃった……」
ややかすれ声で話す桜姫は、熱のせいもあるのか異常に艶めいて見えた。
汗をかいたという桜姫の着替えを手伝いながら、恥ずかしがる彼女を揶揄いつつも診察する。
白いく汗ばんだ肌に手を滑らせるとフルッと身体を震わせる桜姫。
冷えてしまって熱が上がっても困ると、すぐに襦袢を羽織らせた。新しい寝巻を整えたところで、女中が粥を運んでくる。
「食べられそう?」
脱いだ着物を女中に渡して、桜姫の隣に座った家康は彼女を自分に寄りかからせるように座らせてから粥の入った土鍋の蓋を外した。
あまり食欲がないと言う桜姫の口に、匙で少しだけ掬って粥を運ぶ。
小さな口に熱い粥が流れ込み痛みを感じながらもゴクリと飲み込んだ。