第10章 はじまりの緋色 【安室】
“僕の日本から”
この言葉に、引っかかりを覚えた。目を瞠って安室を見ると、彼は十華に向けてわずかに笑みを向けた気がした。
「ねぇ、ちょっと、ゼロ…いや、安室の兄ちゃん…」
不意にコナンが安室を呼ぶ。少し離れたところで、耳打ちし始めた。
(ゼロ…?)
あだ名だろうか。しかし安室の名前は“透”。いや、これが偽名なのだとしたら関係のないものがあだ名でもおかしくはない。“ゼロ”があだ名となる名前は限られるから、それはまた考える事にしよう。十華は先ほどの言葉などを思い返していた。FBIを嫌うような態度、“僕の日本から”という発言、〝ゼロ〟という呼称、持ち前の洞察力、ベルツリー急行で哀を即座に殺そうとしなかった行動。これから推測されるものを、思い浮かべる。
(存在しない組織であれ)
安室とコナンの話が終わったようだ。コナンはもしかしたら、十華と同じことを考えているのかもしれない。戸惑いに変わった目で、安室を見ていた。
(日本の安全と秩序を守る為に存在する組織…公安警察)
その俗称を、“ゼロ”という。コナンに詳しく話をきけばまた何かわかるかもしれない。彼が本当に公安の人間であるのならば、十華が感じた“自分と同じもの”にも納得がいく。なんにせよ、確信があっても確実にそれと証明できなければ逆手にとられるだけだ。
「降参だよ、安室くん…教えてくれんか?」
どうにか考えようとしていた目暮警部が安室に言う。安室は答えを導くように目暮に話していた。ピースとなるのは、チェックと丸、いびつな丸、花丸の書き方。それはアメリカと日本での採点の仕方の違い、血痕を隠そうとした丸の形、利き手の違いによる花丸の渦の方向の違いを意味していた。犯人は、左利きである神立であることが判明した。これで事件は解決だが、それですんなり終わりはしなかった。