第9章 ミステリートレイン 【灰原/安室】
貨物車が爆発し、列車は名古屋駅に着く前に近くの駅に停車する事になった。これから個別に事情聴取が行われるであろう。哀は無事に博士たちと合流でき、これでひとまず安心だ。さすがにこんな人が多い中で手を出してくるほど、ベルモットもバーボンも馬鹿ではない。コナンも蘭たちに合流していた。コナンがキッドと通話を終えたのを遠目で確認し、郁大はスマホのボタンを押す。
「生きてるかー?」
『バッカヤロー!死にかけたっつーの!』
まだ飛んでいるのだろう、風を切る音をまじえながら怒声がとんできた。
「お前なら大丈夫だって信じてたよ」
『ったく、お前といいあいつといい…これは貸しだからな!』
「わかったわかった。何奢れって?水族館か?」
『ばっ…か言ってんじゃねぇよ!!』
魚が嫌いな彼に嫌いなものをすすめて反応を面白がり、郁大はくつくつ笑った。そんな様子にキッドはまた『ったく』とこぼし、『あ!』と声を上げた。
『じいちゃん無事だろうな!?』
「ちゃんとうまいこと逃したよ。あの2人はキッドとその手下の変装で、やつらはいつの間にか逃げたってな」
『そうか、よかった…』
ほっとした声が電話越しに耳に入る。郁大は小さく息を吸った。
「快斗」
『あん?』
「…ありがとな」
『…今度スペシャルチョコアイス奢れよ』
「あぁ…とっておきの高級品を奢ってやるよ」
それじゃ、と交わして通話を切る。友人に心から感謝し、博士に背負われている少女の無事な背中に、微笑みを向けた。