第9章 ミステリートレイン 【灰原/安室】
汽車を降りた昴と十華は並んで歩いていた。有希子は少しだけ離れた所にいる。彼女なりの気遣いだろう。
「十華、お前、知っていたな?」
「…………安室くんがバーボンだってこと?」
小声で言えば、頷かれる。十華は「知ってた」と答えた。
「盗聴したのよ。少し前に、コナンくんが誘拐され…自分から誘拐されにいった事件の時に」
「…そうか」
「…何」
「いや…」
ちら、と昴に見られ、十華は目を細める。言いたいことがあるなら言えばいい。今更そんな口ごもるような関係でもないだろうに。
「なに、はっきりしてよ」
「…お前は彼を気に入っていたようだったからな…」
「…は…?」
突然、何を。そう思ったが、口から出てこない。気に入っているのは、事実なのだから。
「ショックを受けたのではないかと思ったんだが…」
「…あんたにそんなことを心配されるとはね…。大丈夫よ、さっきも言ったけど、知ったのはわりと前だし…」
「そうか…ならいい」
「…?」
まだ腑に落ちない十華であったが、これ以上言っても仕方がない。警察に呼ばれたので、昴と別れて事情聴取に向かった。
「…俺は、“彼”がお前の“光”になれると、思っているんだがな」
その呟きを聞いた者は、誰もいない。