第11章 いいこと探し 〜直江兼続〜
「………っ、」
明らかに戸惑いを見せた彼は私から視線を逸らした。
「…医師には、見せたのか?」
「え?…いいえ、まだ」
「では確定ではないって事か?」
「……っ、はい」
「じゃあまずは医師に見せろ。話はそれからだ」
「……はい。分かりました……あの、」
「俺はこれから謙信様への報告がある。今夜は遅くなるから先に寝ていい」
「……はい」
兼続さんは私を膝から下ろすと立ち上がり、私に振り返る事なく部屋を出て行ってしまった。
膝の上にいた温もりは嘘のようになくなって、畳の冷たさだけが私の足から浸透していく。
「目…最後まで逸らしたままだったな…」
ドラマの様に喜んでくれる姿は確かに想像できなかったけど、あんなにも事務的な会話になるとも思ってなかった。
「仕方…ないよね…?」
囚われの身であった時から寝食は共にしてたけど、心を通わせあってからはまだ数えられるほどしか同じ時を過ごせていない。それなのに妊娠したなんて……、責任を取れって、結婚してくれって迫っている様にしか思われないよね…?
「でも…嬉しかったんだけどなぁ」
妊娠したかもって思った時、何よりも嬉しい気持ちが先に来たのに…
あれ程に完璧な人の心が一瞬手に取るように分かるほど、動揺が見てとれた。
「兼続さんはきっと…喜んでない…?」
心のどこかで喜んでくれるような気がしていたから、互いの温度差に気付かされて気落ちしてしまう。
「まずはお医者さんに見てもらおう」
兼続さんの言う通り、憶測で物を言うのは良くないと思い、私は城下のお医者さんに診察をしてもらいに行った。