第11章 いいこと探し 〜直江兼続〜
兼続さんが初めて私に触れてくれた日をまだ昨日のことのように思い出す。
お互いの気持ちを確認しあったあの日、私たちはお互いの心の隙間を埋めるように体を重ね合った。
幸せだった……けれども、兼続さんはまだ私を愛する事を躊躇い、自分の中に閉じ込めたもう一人の残虐な自分の存在を恐れていた。
だから私は兼続さんに提案した。
“いいこと探しをしませんか?”と……
それは、幼い頃に読んだあるお話から思いついた事。
辛い環境にも負けずに、日々の些細な良いことを探して前向きに生きて行く主人公の様に、私も兼続さんと日々の幸せを感じながら生きていきたい。そして、あの人の心の負担を少しでも軽くしてあげたかった。
兼続さんはそんな私にふっと笑っていたけど、「能天気だな」なんて言いながらも、その日からいいこと探しを一緒に始めてくれた。
だけどそんな甘い時は長くは続かず、短い休暇が明けた次の日から、兼続さんは新たな任務を受けて遠い地へと行ったきり、もう三ヶ月も帰って来ていなかった。
それを聞いた信玄様はある飲みの席で……
『謙信、お前も可哀想なことをするな』
『何の話だ』
『兼続の事だ。二人の気持ちが漸く結ばれた矢先にあんな長期に渡る任務を与えるとは…』
謙信様に絶対服従である兼続さんが、与えられる任務を断るはずも無く、けれども三ヶ月もの長い期間離れ離れにされてしまった私は(信玄様ナイス!)と心の中で思った。
けれども…
『くだらん事を、それにこれは兼続の意思でもある』
『兼続さんの?』
(それは初耳だ…!)
二人のやり取りを黙って聞いていようと思っていたけど、思わず口を挟んでしまった。
『サラ…』
私を見た謙信様は少し辛そうに顔を顰めた後、グイッとお酒を飲み干した。
『謙信様…?』
『……先の…、義昭との戦でお前が殺められたと思い暴走した責任を取りたいと、兼続から申し出があった』
『……っ、でもそれは確かもう…』
謹慎処分も受けたし、その後も危ない任務を成功させ責任を果たしたはずじゃ…