第10章 Reincarnation 〜織田信長〜
目を覚ませば覚ましたで、五百年先の未来から来たなどとぬかし、俺と空良のことを知りたいと言う。空良の事を口にする事は、今や俺の周りでは御法度であるにも関わらず、奴は簡単に空良の事を口に出し、空良に初めて書いた文の事を持ち出して来た。
俺にしては珍しく、來良と空良の間に何か縁(えにし)の様な物を感じ遠ざけることができず、ここに留まることを許した。
そして奴は次の朝から、俺と空良しか知り得ない過去の出来事を夢に見たと言う様になる。しかもその夢はご丁寧に順序立てられていて、來良を通して空良と思い出話をしている様な気になり、心が乱されそうで、俺は意図的に來良を遠ざける様になった。
來良と空良に違いがあるとすれば、その性格だ。優しく素直な反応を見せる所は似ているが、空良にはない積極さが奴にはあり、どれほど遠ざけても食らいついてくる。
そしてあの視察の日も、勝手について来たくせに、俺が馬に乗り自分は歩きだという事にぎゃあぎゃあと吠えて来た。そんな元気な様に、空良も元来はこうであったのだろうかと、やはり來良と空良を重ねて俺は見ていた。
だから、奴が刺客に襲われた時は、空良が襲われている様な気になり、気付けば敵に小刀を投げつけ奴の元へと行き抱きしめていた。
神仏など信じない。だが、一つの考えが俺の頭をよぎる。
來良は空良の……
「ふんっ、阿保らしい」
もし仮にそうだとして、それが何だと言うのだ?
來良は俺の愛した空良ではない。
魂だけになったとて、俺の愛する女は空良以外にはいない。
『信長様』
目を瞑れば、今でも奴の優しく甘い声を鮮明に思い出す。俺の、守れなかった大切な命…
「空良、愛してる。早く俺を迎えに来い」
貴様が肝心な所で遅いのも、俺の本気の問いかけにはだんまりなのも全て分かっている。そんな事を責めたりはせぬ。
ただ、貴様に会いたい。